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ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」
ミュンヒンガー指揮 シュトゥットガルト室内管弦楽団 Vn.クロツィンガー 1958年録音をダウンロード
「四季」と言った方が通りがいいですね(^^;
ヴァイオリン協奏曲集「和声と創意の試み」と言うよりは、「四季」と言った方がはるかに通りがいいですね。
ただヴィヴァルディは12曲からなる協奏曲集として作品をまとめており、その中に「春」「夏」「秋」「冬」という表題がつけられている4曲が存在するわけです。
それにしてもこの4曲をセットにして「四季」と名付けられた作品のポピュラリティには驚くべきものがあります。特に、「春」の第1楽章のメロディは誰もが知っています。
まさに四季といえばヴィヴァルディであり、ヴィヴァルディといえば四季です。
そして、その功績は何と言ってもイ・ムジチ合奏団によるものです。
ある一つの作品が、これほど一人の作曲家、一つの演奏団体に結びつけられている例は他には思い当たりません。(試しに、ヴィヴァルディの作品を四季以外に一つあげてください。あげられる人はほとんどいないはずです。)
そのような有名作品の中で、ユング君が一番好きなのが「冬」です。
それは明らかに北イタリアの冬です。ローマやナポリの冬ではありませんし、ましてや絶対にドイツの冬ではありません。
ヴィヴァルディが生まれ育ったヴェネチアは北イタリアに位置します。その冬は、冬と言っても陽光のふりそそぐ南イタリアと比べればはるかに厳しいものですが、ドイツの冬と比べればはるかに人間的です。
厳しく、凛としたものを感じさせてくれながらも、その中に人間的な甘さも感じさせてくれるそんな冬の情景です。
四季といえば「春」と思いこんでいる人も、少しは他の季節にも手を伸ばしてくれればと思います。(^^
なお、「四季」と呼ばれる4曲には以下のようなソネットがそえられています。
協奏曲第1番 ホ長調、RV.269「春」
アレグロ
春がやってきた、小鳥は喜び囀りながら戻って来て祝っている、水の流れと風に吹かれて雷が響く。小川のざわめき、風が優しく撫でる。春を告げる雷が轟音を立て黒い雲が空を覆う、そして嵐は去り小鳥は素晴らしい声で歌う。鳥の声をソロヴァイオリンが高らかにそして華やかにうたいあげる。みな、和やかに
ラルゴ
牧草地に花は咲き乱れ、空に伸びた枝の茂った葉はガサガサ音を立てる。ヤギ飼は眠り、忠実な猟犬は(私の)そばにいる。弦楽器の静かな旋律にソロヴァイオリンがのどかなメロディを奏でる。ヴィオラの低いCis音が吠える犬を表現している。
アレグロ(田園曲のダンス)
陽気な田舎のバグパイプがニンフと羊飼いを明るい春の空で踊る。
協奏曲第2番 ト短調、RV.315「夏」
アレグロ・ノン・モルト−アレグロ
かんかんと照りつける太陽の絶え間ない暑さで人と家畜の群れはぐったりしている。松の木は枯れた。カッコウの声が聞こえる。そしてキジバトとスズメの囀りが聞える。柔らかい風が空でかき回される。しかし、荒れた北風がそれらを突然脇へ追い払う。乱暴な嵐とつんのめるかも知れない怖さで慄く。原譜には「暑さで疲れたように弾く」と指示がある。ヴァイオリンの一瞬一瞬の“間”に続いての絶え間ない音の連続が荒れる嵐を表現している。
アレグロ・プレスト・アダージョ
彼の手足は稲妻と雷鳴の轟きで目を覚まし、ブヨやハエが周りにすさまじくブンブン音を立てる。それは甲高い音でソロヴァイオリンによって奏でられる。
プレスト(夏の嵐)
嗚呼、彼の心配は現実となってしまった。上空の雷鳴と巨大な雹(ひょう)が誇らしげに伸びている穀物を打ち倒した。
協奏曲第3番 ヘ長調、RV.293「秋」
アレグロ(小作農のダンスと歌)
小作農たちが収穫が無事に終わり大騒ぎ。ブドウ酒が惜しげなく注がれる。彼らは、ほっとして眠りに落ちる。
アダージョ・モルト(よっぱらいの居眠り)
大騒ぎは次第に弱まり、冷たいそよ風が心地良い空気を運んで来てすべての者を無意識のうちに眠りに誘う。チェンバロのアルペジオに支えられてソロヴァイオリンは眠くなるような長音を弾く。
アレグロ(狩り)
夜明けに、狩猟者が狩猟の準備の為にホルンを携え、犬を伴って叫んで現れる。獲物は彼らが追跡している間逃げる。やがて傷つき獲物は犬と奮闘して息絶える。
協奏曲第4番 ヘ短調、RV.297「冬」
アレグロ・ノン・モルト
身震いして真ん中で凍えている。噛み付くような雪。足の冷たさを振り解くために歩き回る。辛さから歯が鳴る。ソロヴァイオリンの重音で歯のガチガチを表現している。
ラルゴ
外は大雨が降っている、中で暖炉で満足そうに休息。ゆっくりしたテンポで平和な時間が流れる。
アレグロ
私たちは、ゆっくりとそして用心深くつまづいて倒れないようにして氷の上を歩く。ソロヴァイオリンは弓を長く使ってここの旋律を弾きゆっくりとそして静かな旋律に続く。しかし突然、滑って氷に叩きつけられた。氷が裂けて割れない様、そこから逃げた。私たちは、粗末な家なのでかんぬきでドアを閉めていても北風で寒く感じる。そんな冬であるがそれもまた、楽しい。
アルプスの北側の演奏
イ・ムジチとの聞き比べの面白さと言うことでアップしました。それほどまでに、この両者はテイストが異なります。
ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集から4曲だけをまとめて「四季」と題して録音したのはイ・ムジチ合奏団が最初だと思っていたのですが、調べてみるとミュンヒンガーの方が先だと言うことが分かりました。ただし、そう言う試みがミュンヒンガーが最初なのかは確認が取れませんでしたが、51年に録音しています。
しかし、社会現象も言うべき大ヒットになったのは、ステレオ録音の時代になってからのイ・ムジチの演奏でした。
ミュンヒンガーも同じようにステレオ録音を行ったのですが、イ・ムジチに対する圧倒的な支持を覆すようなものにはなりませんでした。
しかし、調べてみると、このミュンヒンガーの録音も「現役盤」です。
58年に録音されたこの演奏は、最近の録音と比較しても遜色がないほどに素晴らしいクオリティを誇っていますし、演奏も決して悪くはありません。
まず、全体的な響きは分厚くもなく重くなることもありません。強めのアタックでクッキリとした輪郭線でメロディラインを描いていくやり方は清楚であり上品です。
ヴァイオリンの独奏もアーヨは大違いで、細身の音でキリリとしています。
明らかに、古楽器によるピリオド演奏の原点を垣間見るような演奏です。
そして、重要なことは、悪くはないにもかかわらず多くの人が選んだのはミュンヒンガーではなくてイ・ムジチだったという事実です。
イ・ムジチの演奏がアルプスの南側の演奏だったとすれば、これは明らかにアルプスの北側の演奏です。
そして、かつてのヨーロッパの知識人の多くがアルプスの南側に憧れを抱いていたことを思いかえせば、この選択は至極当然だったのかもしれません。