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ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 op.60


クリュイタンス指揮 ベルリンフィル 1959年5月録音をダウンロード


北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女



北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女、と形容したのは誰だったでしょうか?(シューマンだったかな?)エロイカと運命という巨大なシンフォニーにはさまれた軽くて小さな交響曲というのがこの作品に対する一般的なイメージでした。

そのためもあって、かつてはあまり日の当たらない作品でした。
そんな事情を一挙に覆してくれたのがカルロス・クライバーでした。言うまでもなく、バイエルン国立歌劇場管弦楽団とのライブ録音です。

最終楽章のテンポ設定には「いくら何でも早すぎる!」という批判があるとは事実ですが、しかしあの演奏は、この交響曲が決して規模の小さな軽い作品などではないことをはっきりと私たちに示してくれました。(ちなみに、クライバーの演奏で聴く限り、優美なギリシャの乙女と言うよりはとんでもないじゃじゃ馬娘です。)

改めてこの作品を見直してみると、エロイカや運命にはない独自の世界を切り開こうとするベートーベンの姿が見えてきます。
それはがっしりとした構築感とは対極にある世界、どこか即興的でロマンティックな趣のある世界です。それは、長い序奏部に顕著ですし、そのあとに続く燦然たる光の世界にも同じ事が言えます。第2楽章で聞こえてくるクラリネットのの憧れに満ちた響き、第3楽章のヘミオラ的なリズムなどまさにロマン的であり即興的です。
そして、こういうベクトルを持った交響曲がこれ一つと言うこともあり、そう言うオンリーワンの魅力の故にか、現在ではなかなかの人気曲になっています

専門家筋には評価が高い指揮者

一般のユーザーにはそれほどではないが、なぜか専門家の中では評価が高い、と言う指揮者が存在します。私が大好きなセルなどはその典型でした。しかし、なぜかネットの時代に入ってから彼を評価する声が高まり、冷たくて機械的な演奏をする指揮者という、どこのだれが言い出したのかしれない評価を覆すに至りました。
実は、このクリュイタンスという指揮者も、なぜか専門家筋では高く評価する人が多いのです。しかし、一般ユーザーの中では、クリュイタンスのベートーベンなんて面白おかしくもないというのが一般的な評価でした。なかには、ベルリンフィルがはじめてベートーベンの交響曲全集を完成させたときの指揮者・・・と言う一種の「トリビア(くだらないこと、瑣末なこと、雑学的な事柄や知識)」としての話題しか価値がないという酷評も存在しました。
もっと凄いのは、音符を並べただけ、と切り捨てた評論家もいましたね・・・。

ちょっと記憶が曖昧なのですが、プロオケのメンバーで何種類かの運命の録音を聞いてもらって、どの指揮者で演奏したいかをこたえてもらうような企画がありました。(あったような気がします。)選ばれたのはカラヤンやフルトヴェングラーなどの錚々たるメンバーだったのですが、その中になぜか(^^;クリュイタンスが紛れ込んでいました。
一つ一つ聞きながら、それぞれが好き勝手なことを言っていくので、こりゃぁ「かませ犬」かな?と思ったのですが、何と最後にほぼ全員一致で選ばれたのがクリュイタンスだったのです。
その理由は「何をしたいのかが明確に伝わってくる」というのです。

このあたりは、気楽に聞いていればすむサイドと、そう言う聞き手に対して一定のクオリティの音楽を提供する義務のあるサイドとの相違があるので、だからクリュイタンスって凄いんだ!と言う根拠にはなりません。
どこかのコンマスが、指揮者との間に一定の軋轢があり、なんだこの野郎!みたいな感じで格闘しているような時の方が観客席が沸くという話をしていました。彼が言うには、いったい何を振っているのか分かんないけどもそれでも必死でついていったら観客席からは「ブラボー!」が巻き起こることが多いというのです。逆に、明確な指示でオケのメンバー全員が実に気持ちよく演奏できたのに、なぜか観客席がシラッとしていることがよくあるというのです。
このあたりのオケと指揮者の関係というのは掘り下げれば面白いネタになりそうなのですが、ここはそう言う場ではありませんのでこの程度でやめておきます。
しかし、このコンマスの話を信じるならば、なぜにクリュイタンスのベートーベンが面白おかしくもないと言われるのかが、何となく分かってくるような気がします。

野球の試合にたとえれば、フルトヴェングラーの演奏というのは壮絶な乱打戦の末にもうダメかと思った9回の裏に一気に5,6点取って胸のすくような逆転サヨナラゲームという風情です。見ている方は拍手大喝采ですが、やっている選手のプレッシャーは並大抵ではありません。
これがカラヤンならば、点を取られたら取り返すというシーソーゲームの面白さを堪能はさせるが、それでも最後はだめ押し点をきっちりと追加して悠々と逃げ切り、「今日も勝ったぜ!!」というような試合でしょうか。劇的な幕切れというのはありませんが、1回から9回までタップリと試合を楽しませてくれます。
しかし、クリュイタンスの場合は、ランナーが出ればきっちりとバンドで2塁におくってワンヒットで1点獲得、時には四球で出塁したランナーが足をからませて外野犠飛でノーヒットで1点、みたいな野球です。大量点は入りませんが、コツコツと1点ずつ積み上げて「5対0」ぐらいで完勝という野球です。選手にとっては実に気持ちの良い試合展開でしょうが、見ている方はあまり面白くないのです。

しかし、専門家が高く評価するのはこういうそつのないプレーをするチームですし、長いペナントレースを制するのもこういうチームです。なるほど、だからベルリンフィルが初めての全集(ペナントレース)を作るときにクリュイタンスを選んだんだな。