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モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K.201 (186a)


コリン・デイヴィス指揮 シンフォニア・オブ・ロンドン 1959年7月20&21日録音をダウンロード


ザルツブルグ交響曲(後半)



<ザルツブルク(1773〜1774年)>

交響曲第22番 ハ長調 K.162
交響曲第23番 ニ長調 K.181
交響曲第24番 変ロ長調 K.182
交響曲第25番 ト短調 K.183
交響曲第27番 ト長調 K.199
交響曲第26番 変ホ長調 K.184
交響曲第28番 ハ長調 K.200
交響曲第29番 イ長調 K.201
交響曲第30番 ニ長調 K.202

アインシュタインは「1773年に大転回がおこる」と述べています。
1773年に書かれた交響曲はナンバーで言えば23番から29番にいたる7曲です。このうち、23・24・27番、さらには26番は明らかにオペラを意識した「序曲」であり、以前のイタリア風の雰囲気を色濃く残したものとなっています。しかし、残りの3曲は、「それらは、---初期の段階において、狭い枠の中のものであるが---、1788年の最後の三大シンフォニーと同等の完成度を示す」とアインシュタインは言い切っています。
K200のハ長調シンフォニーに関しては「緩徐楽章は持続的であってすでにアダージョへの途上にあり、・・・メヌエットはもはや間奏曲や挿入物ではない」と評しています。そして、K183とK201の2つの交響曲については「両シンフォニーの大小の奇跡は、近代になってやっと正しく評価されるようになった。」と述べています。そして、「イタリア風シンフォニーから、なんと無限に遠く隔たってしまったことか!」と絶賛しています。そして、この絶賛に異議を唱える人は誰もいないでしょう。
時におこるモーツァルトの「飛躍」がシンフォニーの領域でもおこったのです。そして、モーツァルトの「天才」とは、9才で交響曲を書いたという「早熟」の中ではなく、この「飛躍」の中にこそ存在するのです。

コリン・デイヴィスの「最初の一歩」を知ることができる録音

コリン・デイヴィスを取り上げるのは初めてです。私がクラシック音楽なるものを本格的に聞き始めたのは1980年頃ですから、この名前は「バリバリの現役」としてインプットさています。そして、そう言う「位置づけ」の指揮者の録音もパブリックドメインの仲間入りをしてきたことに、ある種の感慨を感じずにはおれません。
さらにつけ加えれば、コリン・デイヴィスと言えば、私の中ではボストン交響楽団とのコンビで素晴らしいシベリウスの交響曲全集を完成させた人と言うことでインプットされています。

しかしながら、こういう認知の仕方は極めて個人的に偏ったものであって、一般的にはモーツァルトやベルリオーズのスペシャリストとして認められ、さらに言えばイギリスの数少ない作曲家の一人であるマイケル・ティペットの擁護者として知られています。しかしながら、私のCDの棚を眺め回してみても、恥ずかしながら彼のベルリオーズやティペットの録音はほとんど見あたりません。それと比べて、シベリウスに関してはロンドン響との全集も並んでいるのですから、どうにもこうにも、私の中でのデイヴィスはシベリウス指揮者と言うことになってしまっているようです。
つまりは、どう考えても、私はコリン・デイヴィスのよい聞き手ではないと言うことです。

しかしながら、今回、彼の若い時期の録音、とりわけ彼が最も得意としたモーツァルトの録音を聞いてみて、その基本的な音の作り方はシベリウスと大きく変わらないなと言うことは確認できました。
デイヴィスが作り出す音楽の最大の特徴は、その音色がシルクの手触りを思わせるようなトーンを持っていることです。特に、70年代の後半に、ボストン交響楽団とのコンビで完成させた全集の響きは素晴らしくて、未だにそのLPレコードを後生大事に保存しているほどです。

コリン・デイヴィスと言えば、貧しい家庭に育ったためにピアノを買うことができず、そのために最も値段の安かったクラリネットで音楽の学習を開始したという話は有名です。そして、ピアノの演奏能力に問題があったために音楽大学では指揮法の履修を断られたという話も、これまた知る人ぞ知る有名なエピソードです。
しかしながら、そう言う境遇にもめげずに、自分たちの仲間内でオケを作って指揮活動を始め、そして、ついにはクレンペラーが病気でキャンセルしたとき(1959年)に、その代役として「ドン・ジョヴァンニ」を指揮して大成功を収めと言う話も、これまた有名です。

今回紹介した一連の録音(1959年~1960年)は、その成功によって急遽計画されたものではないかと思われます。録音は全てモーツァルトの作品なのですが、それは「ドン・ジョヴァンニ」(コンサート形式)の成功によって注目されたことを考えれば、商業的にはそうならざるを得なかったのでしょう。
しかし、「シンフォニア・オブ・ロンドン」というスタジオ録音を専門とするオケであっても、弦楽器の歌わせ方のうまさは充分に感じ取ることができます。もちろん、後年のボストン響のようなふくよかさと透明感が絶妙にマッチしたシルキーな響きとはいきませんが、それでも充分すぎるほどの透明感のある美しさは実現しています。
また、デイヴィスと言えば、手堅く正統派の音楽作りをするというイメージがあるのですが、これなどを聞くと、意外とあざとい表現なども垣間見られて面白いです。

80を超えた今も元気に活躍するコリン・デイヴィスの「最初の一歩」を知ることができるという意味でも、なかなかに興味深い録音だと言えるのではないでしょうか。