クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~


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シェーンベルク:ピアノ協奏曲 作品42

(P)グールド ロバート・クラフト指揮 CBC交響楽団 1961年1月21日録音




20世紀の古典

シェーンベルクはナチスの影響力が強くなるヨーロッパを嫌って、1933年にはアメリカに亡命をします。そして、そのアメリカにおいて今まで手がけたことのなかった「協奏曲」というジャンルの作品を手がけます。
1936年に作品36として「ヴァイオリン協奏曲」、1942年に作品42として「ピアノ協奏曲」を発表します。
作品番号と西暦の下2桁を一致させたのは偶然なのか、シェーンブルクのちょっとした「悪戯」だったのかは分かりませんが、テストかクイズの問題として出たときは覚えやすくて助かります。(^^v

さて、アメリカに渡ると、どういう訳か「分かりやすい作品」をみんな書くようになります。
バルトークも「管弦楽のための協奏曲」とか「ピアノ協奏曲第3番」などを書くようになります。シェーンベルクもまた、「第2室内交響曲」などに代表されるような分かりやすい音楽を書いて調性を復活させたりします。
そして、そう言う傾向を先鋭的な評論家連中は「保守化」とか「退嬰」などと言って貶すのですが、音楽は「理論」に使えるものではなく聞き手に奉仕するものだという「当たり前」のことに思いをいたせば、そんなことはどうでも良いことです。

そして、そう言う、いささか様変わりしたシェーンベルクが、再び12音技法を駆使した無調の世界に戻ってきたのがこのピアノ協奏曲です。
冒頭で、彼の12音技法の規則に則って、全曲のベースとなる12音からなる音列(原型)とその反行形が提示されます。しかし、聞けばすぐに分かるように、この音楽が素晴らしいのは、そのような12音技法の原則に則って精緻に書かれているからではなくて、その音列がこの上もなく「美しい」からです。そして、その音型を基礎としながらそこから紡ぎ出されていく音楽の一瞬一瞬がこの上もなくロマンティックに響くからです。

シェーンベルク、無調、12音などという言葉に身構えることなく、ただその響きの美しさに虚心に耳を傾けるならば、まさに20世紀の古典とも言うべき音楽だと言うことが容易に理解でいるはずです。(おそらく、その音はバルトークの弦楽四重奏曲を聴くよりははるかに容易に理解できるはずです。)

逆説的に聞こえるかもしれませんが、実に聞きやすい音楽です。


こういう録音を聞かされると、なるほどなぁ・・・と思ってしまいます。そして、どこかでエラーい評論家先生が、「グールドのような青白きインテリ青年風の演奏でこの作品を聞かされてもその真価が分かることはない!」と言い切っているのを読んで、「私は十分に納得させられるけれどもなぁ・・・」などとつぶやいてしまったりします。

グールドはどこかでロマン派の音楽は聞きづらいと語っていました。

なるほど、確かにロマン派だけでなくベートーベンやモーツァルト以降の音楽というものは、基本的に「段取り」の音楽だったような気がします。
例えば、ソナタ形式などというのは、音楽のほとんどが「段取り」でできているようなものです。然るべき結論に重みを持たせるために、第1主題がウンタラ、展開がカンタラ・・・と小うるさい段取りで音楽のほとんどが埋め尽くされています。もちろん、そこまで言えば・・さすがに(^^;・・・・言い過ぎかもしれませんが、しかし、そう言う類の音楽を楽しむためには、そう言う「段取り」の部分にも辛抱強く付き合い、理解することが必要なことは否定しきれません。
しかし、音楽を聴くのに「理解」と「辛抱」がいるとすれば、やはり「聞きづらい音楽」と言わざるを得ないのかもしれません。

そう言う音楽と比べれば、バッハの音楽は直裁です。そして、その事はシェーンベルクの音楽ではより徹底されていることに気づかされます。

とりわけ、シェーンベルクの音楽においては、今鳴り響いている音は、その全てが疑いもなくそれ自身として自立しています。そこには「段取り」のための音は基本的には存在しません。
それ故に、聞き手はその瞬間瞬間に鳴り響く音に身も心も浸していればいいだけです。今を理解するために過去を振り返る必要もなく、未来をよりよく理解するために今を記憶にとどめておくことも強要されないのです。
ですから、逆説的に聞こえるかもしれませんが、基本的な構造としては非常に聞きやすい音楽と言うことになります。

そうなれば、問題はただ一つです。

今鳴り響いている音楽に、素直に身も心も浸ることができるか否か・・・です。

そして、結論から言えば、グールドの演奏でこの音楽を聴かされる時、答えは躊躇いもなく「イエス」です。

ここで鳴り響いている音楽は、いささか手触りは違うかもしれませんが、本質的には極めてロマンティックな音楽です。訳の分からない、聞くものに嫌悪感を呼び起こすような戦後の「前衛音楽」とは全く異なる音楽であることは、虚心に音楽に耳を傾ける気持ちがあれば容易に理解できることでしょう。
これほどまでに聞きやすく、心にしみいる音楽というものはそうあるものではありません。

そして、「ロマン派の音楽は聞きづらい」と語ったグールドの言葉を反芻しながら、なるほどなぁ・・・とまたつぶやくのです。