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ヘンデル:合奏協奏曲第4番 イ短調 作品6の4

カール・シューリヒト指揮 バイエルン放送交響楽団 1961年9月録音


  1. ヘンデル:合奏協奏曲第4番 イ短調 作品6の4「第1楽章」
  2. ヘンデル:合奏協奏曲第4番 イ短調 作品6の4「第2楽章」
  3. ヘンデル:合奏協奏曲第4番 イ短調 作品6の4「第3楽章」
  4. ヘンデル:合奏協奏曲第4番 イ短調 作品6の4「第4楽章」



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多様性に溢れた合奏協奏曲

合奏協奏曲に関してはコレッリの項で少しふれました。

「合奏協奏曲」とは、独奏楽器群(コンチェルティーノ)とオーケストラの総奏(リピエーノ)に分かれ、2群が交代しながら演奏する音楽形式です。コレッリの「合奏協奏曲」は弦楽アンサンブルで演奏されるのですが、その後ヘンデルの時代になると「リピエーノ」に管楽器が導入されることでより華やかさを増していきます。」
そのヘンデルは、この形式で30曲程度の作品を残しているのですが、最も有名なのは作品番号6の12曲です。
と言うか、一般的に「合奏協奏曲」と言えばこの12曲を思いおこすのが普通です。

ちなみに、自分の創作活動を跡づけるものとして作品番号を与えるのは芸術家としての意識が高まるロマン派以降の習慣で、それ以前の時代では出版された順番を示すことが多かったようです。
パガニーニの「24の奇想曲」に「作品番号1」とついているの等はその典型でしょう。

ヘンデルと言えばオラトリオとオペラに創作活動の大部分を注いだ音楽家でしたから、「作品番号6」の器楽曲というとなんだか若書きの作品のような気がするのですが決してそんな事はありません。
この12曲からなる「作品番号6」の合奏協奏曲はヘンデル57歳の頃に作曲されていて、この3年後には「メサイア」が生み出されるのですから、まさにヘンデルの絶頂期に生み出された器楽の傑作と言えます。

この合奏協奏曲は、正式名称が「ヴァイオリンその他の7声部のための12の大協奏曲」となっています。
ここでの「大協奏曲(Grand Concerto)」というのが「合奏協奏曲」のことです。そして、7声部というのは独奏部に第1と第2のヴァイオリンとチェロ、合奏部には第1と第2のヴァイオリンとヴィオラ、さらに通奏低音用のチェンバロから成り立っていることを示しています。楽器編成という点ではかなり小規模な音楽です。

しかし、この「合奏協奏曲集」で驚かされるのは、数あわせのために同工異曲の音楽を12曲揃えたのではなく、その一つ一つが全て独自性を持った音楽であり、一つとして同じようなものはないという点です。
さらに驚くのは、その様な多様性を持った12曲の音楽をわずか1ヶ月程度で(1739年9月29日~10月30日)書き上げているのです。ヘンデルの速筆は夙に有名なのですが、この12曲をこんな短期間で書き上げたエネルギーと才能には驚かされます。

同じバロックの時代にこの作品群と対峙できるのはバッハのブランデンブルグ協奏曲くらいでしょう。そして、この二つを較べれば、バッハとヘンデルの気質の違いがはっきりと見えてきます。

ヘンデルの合奏協奏曲は7声部のためとなっているのですが、幾つかの楽器が同じ声部を演奏するのでそれよりも少ないラインで音楽が構成されていることが少なくありません。それでも、ヘンデルもまたバロックの音楽家なのでそれらの声部をポリフォニックに扱っているのですが、その扱いはバッハと較べればはるかに自由で簡素です。
実際に音楽を聴けばホモフォニックに響く場面も少なくありません。

また、フーガにしてもバッハのような厳格さよりは音楽の勢いを重視して自由さが特徴です。
バッハが厳格で構成的だとすれば、ヘンデルの音楽は明らかに色彩豊かで流動的です。
そんなヘンデルに音楽の「母」をみたのは実に納得のいく話です。

第4番 イ短調 作品6の4

12曲の中ではいささか影のうすい作品です。イ短調と言うことである種の暗さはあるもののそれほど深刻で悲劇的な色合いではありません。
冒頭の二つの楽章はフランス風の序曲のような佇まいを見せていまずが、第2楽章のアレグロはヘンデル風の自由なフーガであり非常に充実した音楽になっています。それに続く第3楽章のラルゴはハ長調なのですが何処か聞くものの心にしみじみと訴えかけるものを持っています。
そして最終楽章では再びアレグロに戻り音楽は軽快さを取り戻すのですが、底には何処か同家の悲しみのような雰囲気が漂います。


  1. 第1楽章:ラウゲット・エ・アッフェットゥオーソ

  2. 第2楽章:アレグロ

  3. 第3楽章:ラルゴ・エ・ピアノ

  4. 第4楽章:アレグロ





「理」に基づいた音楽

シューリヒトという人の特徴がよくあらわれている録音です。よく言われる彼の特徴は「淡麗辛口」です。
あっさりとした表現でありながらきりりと引き締まっている、それがシューリヒトの音楽です。

この時代に巨匠と呼ばれた人たちがバロックの音楽を取り上げると、とんでもなく大袈裟で濃厚な音楽に仕立て上げるのが一般的でした。もっとも、この「大袈裟で濃厚」というのは今の耳がそう感じるだけで、その時代にあってはそれこそがスタンダードだったのです。


  1. バッハ:管弦楽組曲第3番:フルトヴェングラー指揮 ベルリンフィル 1948年9月録音

  2. バッハ:管弦楽組曲 第3番:クナッパーツブッシュ指揮 ウィーンフィル 1944年6月24日録音



この辺りがその典型でしょうか。とりわけフルトヴェングラーのバッハには仰け反ってしまうのですが、それでも、当時はこれが常識の範疇だったわけです。そして、クラシック音楽の表通りをこういう演奏が闊歩していた時代に、その裏通りで現在のピリオド演奏に繋がる試みが産声を上げていたのです。
ただし、シューリヒトの演奏を聴くとき、雰囲気的にはそう言うピリオド演奏に繋がっていく系譜の中にあるような気がするのですが、じっくり聞いてみればやはりそれは違うという気がしてきます。

シューリヒトがバロック音楽を取り上げると、それは「情」ではなくて「理」に基づいた音楽になっています。ただし、その「理」は歴史的に云々というレベルの「理」ではなくて、楽譜に示された「理」を描ききろうとするものです。そして、バロック音楽というのは、とりわけバッハの音楽は基本的に「理」の音楽ですから、その意味において同時代の巨匠たちよりははるかに音楽の本質をとらえているように思います。

なお、シューリヒトという人は日本ではこの時代を代表する「巨匠」としての評価が定着していますが、存命中の評価はそれほど高くない指揮者でした。それ故に、残された録音はマイナーなレーベルのものが多く音質的にも芳しくありません。
とりわけ、最晩年に集中的に録音した「Conceert Hall」というレーベルは録音が芳しくないことで有名でした。

しかし、このヘンデルの一連の合奏協奏曲は、世間で言われるほどには音質は悪くないように思えます。非常に美しく響きがとらえられていて、この「理」が生み出す音楽の美しさを上手くすくい上げています。
メジャーレーベルのようにあれこれ手を加えていない「録りっぱなし」の長所があらわれているようです。