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ドビュッシー:3つの交響的スケッチ「海」
エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団 1964年12月録音をダウンロード
ドビュッシーの管弦楽作品を代表する作品
「牧神の午後への前奏曲」と並んで、ドビュッシーの管弦楽作品を代表するものだと言われます。そう言う世間の評価に異議を唱えるつもりはありませんが、ユング君の率直な感想としては、この二つの作品はたたずまいがずいぶん違います。
いわゆる「印象派」と呼ばれる作品ですが、この「海」の方は音楽に力があります。そして曖昧模糊とした響きよりは、随分と輪郭線のくっきりとした作品のように思えます。
正直申し上げて、ユング君はあのドビュッシー特有の茫漠たる響きが好きではありません。眠たくなってしまいます。(^^;
そんな中で、結構CDでよく聞くのがこの「海」です。
作曲は1903年から1905年と言われていますが、完成後も改訂が続けられたために、版の問題がブルックナー以上にややこしくなっているそうです。詳しくはこちら。→ドビュッシーの「海」
一般的には「交響詩」と呼ばれますが、本人は「3つの交響的スケッチ」と呼んでいました。作品の雰囲気はそちらの方がピッタリかもしれません。
描写音楽ではありませんが、一応以下のような標題がつけられています。
1 「海の夜明けから真昼まで」
2 「波の戯れ」
3 「風と海との対話」
精緻な耳
アンセルメとスイス・ロマンド管弦楽団の組み合わせは、この国ではあまりに評価が高くありません。何故ならば、その素晴らしい録音に心躍らして待ちわびた初来日(1968年6月~7月)での公演があまり芳しくなかったのです。実際、その演奏は彼らの名誉になるようなものでなかったことは事実のようです。そして、その初来日での評判の悪さが、アンセルメとスイス・ロマンド管弦楽団の演奏は録音のマジックによって嵩上げされたものだという「まことしやかな話」が広まることになったのです。
しかし、「DECCA」の技術陣によって録音された演奏には、「録音のマジック」などというものは存在しません。
もしもあるとすれば、まさに今そこで鳴り響いているオケの響きを過不足なくすくい取る「能力」と「誠意」があったと言うことだけです。
後日の話になりますが、この初来日の酷評の大部分は初日の公演となった6月22日の「東京文化会館」での演奏に基づくものであり、来日公演全体を総括してでのものではなかったようです。さらに言えば、この時アンセルメは既に84才という高齢であり、そのために長旅の疲れも抜けきっておらず、時期的にも梅雨の真っ最中という悪コンディションの中で楽器も十全に鳴り響かず、さらに言えば会場は「東京文化会館」だったという様々な悪条件が重なってのことでもあったようです。
ですから、それ以後の公演に関しては好意的な評価も多かったのですが、それらは全て無視されて「アンセルメの演奏はデッカの録音マジックの賜物」という言葉だけが一人歩きしてしまうことになったのです。
もしかしたら、この4年前にアンセルメが単独で来日してNHK交響楽団を指揮したのですが、その時に「オケの楽器が悪すぎる」と酷評した事への意趣返しもあったのではないかと疑ってしまいます。
「DECCA」のような録音スタイルは、オケと指揮者、そして何よりも録音会場の良し悪しでクオリティが決まってしまいます。
とくに、「DECCA」は録音会場への配慮は他のレーベルと較べれば群を抜いていて、使ってもよい録音会場は長年にわたってアーサー・ハディが事前に調査を行って「OK」が出たところに限られていたそうです。つまりは、「DECCA」録音とは、まさにこのアーサー・ハディが生み出した音のことであり、その精神は彼が実際の録音現場を離れても、「DECCA」の中では脈々と受け継がれていったようなのです。
そして、いわゆる「DECCA TREE」というスタイルでの録音は、アムステルダムのコンセルトヘボウやローマの聖チェチーリア音楽院のようなホールで培われたものだったのであり、スイス・ロマンド管弦楽団の本拠地であったヴィクトリア・ホールもまたその様なお眼鏡にかなった会場の一つだったのです。
ドビュッシーと言えば「印象派」という分かったような概念で括られ、その茫漠たる響きが特徴とされるのですが、実際はその複数の絡み合った声部を精緻に描き分けないと本当の魅力は分かりません。そして、既に80才を超えていたアンセルメの耳はその精緻な響きを見事に聞き分け、それを的確にオケに指示を出すことで現実の響きへと変換しているのです。
当然も事ながら、デッカの録音陣もまた、「茫漠」という曖昧な言葉に惑わされることなく、その複数の声部が精緻に重なり合っていく様を見事にとらえきっています。
アンセルメと「DECCA」の優秀録音と言えば真っ先にサン=サーンスのオルガン交響曲があげられるのですが、ここにはあのような聞く人の耳を驚かす凄みはありませんが、これもまたこのコンビによる優れた成果だと言えます。
また、再生する装置にそれなりのクオリティがあれば、この録音にもあのオルガン交響曲に負けないような凄い低音が入っていることに気づくことでしょう。そういう部分に関しても一切の手加減がされていないのがこの時代の録音の特徴だと言えます。