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ドビュッシー:3つの交響的スケッチ「海」
ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1957年5月31日録音をダウンロード
ドビュッシーの管弦楽作品を代表する作品
「牧神の午後への前奏曲」と並んで、ドビュッシーの管弦楽作品を代表するものだと言われます。
そう言う世間の評価に異議を唱えるつもりはありませんが、率直な感想としては、この二つの作品はたたずまいがずいぶん違います。
いわゆる「印象派」と呼ばれる作品ですが、この「海」の方は音楽に力があります。
そして曖昧模糊とした響きよりは、随分と輪郭線のくっきりとした作品のように思えます。
正直申し上げて、あのドビュッシー特有の茫漠たる響きが好きではありません。
眠たくなってしまいます。(^^;
そんな中でも聞く機会が多いのががこの「海」です。
作曲は1903年から1905年と言われていますが、完成後も改訂が続けられたために、版の問題がブルックナー以上にややこしくなっているそうです。
一般的には「交響詩」と呼ばれますが、本人は「3つの交響的スケッチ」と呼んでいました。
作品の雰囲気はそちらの方がピッタリかもしれません。
描写音楽ではありませんが、一応以下のような標題がつけられています。
- 「海の夜明けから真昼まで」
- 「波の戯れ」
- 「風と海との対話」
有名なルガーノライヴです。
有名なといっても、有名なのはセルに関心を寄せている人の間だけでしょうから、少し詳しく説明しておきます。セルとクリーヴランドが始めて行ったヨーロッパ公演でのライブ録音です。場所はイタリアの小さな町のルガーノでのコンサートで、プログラムはシューマンの2番とドビュッシーのラ・メール、そしてアンコール曲と思われるベルリオーズのラコッティ行進曲です。
この録音は厳密に言えばセルがOKを出したものではないでしょうから、海賊盤の内にはいるのでしょう。
1957年5月31日の行われたこの演奏会の記録での最大の聴きものはシューマンの2番です。
もともと、シューマンの交響曲はセルの得意技の一つでした。スタジオ録音の交響曲全集はおそらくシューマン演奏の最良なるものの一つです。
しかし、このライヴの演奏はそのスタジオ録音とは次元の違う演奏です。
なぜなら、スタジオ録音では到底窺えなかったロマンティシズムの横溢が聴けるからです。
凄いのが、スケルツォ楽章とアレグロ・モルト・ヴィヴァーチェという指示のある最終楽章です。
特に第2楽章では、高速でコーナーに突っ込んで、スピードを落とすことなくそのコーナーをスリリングに駆け抜けていくような爽快感を味わえます。
そして一番感心させられるのが、クリーヴランドのオケはそんなセルの棒に追随しながら、完璧なアンサンブルを崩すことなく驀進していくことです。一糸乱れぬ鬼のアンサンブルが生み出す底光りするような強靱な響きが、セルの棒に応えてアクセル全開で突っ走っていきます。
これこそが、セルが理想とした響きでしょうし、私たちが耳にできる最良の音楽の一つです。
疑いもなく。
確かに、ウィーンフィルとの演奏のような人肌のぬくもりを感じさせる演奏ではありません。ゆったりと聴けるような代物ではありませんん。
しかし、指揮者とオーケストラが最高の集中力をもって作り出す音楽は、昨今の軟弱きわまる演奏を聴かされてきた耳には極上の喜びを与えてくれます。
それにしてもこの集中力は凄いの一言に尽きます。
ただし、一部では「アンコールのハンガリー行進曲はハチャメチャになっていますから、逆にその大変さを感じさせてくれます。」などと書いている人もいるのですが、それは間違っています。あの曲はもともとあんなリズムの音楽なのです。
セルという人は、ライヴでも強固な形式観を崩さないと言う印象があったのですが、逆に言えばそういう演奏しかOKを出さなかったのかも知れません。
セルの、おそらくはあずかり知らないところで発売されたCDでこんな演奏が聴けるとすると、結構爆発する人だったのかも知れません。
逆に言えば、よほど自分自身の手綱を締めておかないと内なる情熱が奔馬のように暴れ出すことを知っていたのかも知れません。
そんなあふれるような情熱の手綱を締めるだけ締めて、より高い次元で止揚したセルの芸術を多くの人に再評価してほしいと思います。