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バルトーク:「舞踏組曲」 Sz.77
アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1962年7月録音をダウンロード
バルトークらしい強烈なリズムの推進力は聞くものを圧倒します
1923年の夏、ブダペスト市の合併市政50周年記念音楽祭のために作曲された作品で、バルトークは後年、「ハンガリーとその周辺諸国民の連帯という意図を込めて作曲した」と語っています。
バルトーク自身の言葉によれば、第1舞曲の「Moderato」では「部分的に東洋・アラブ風」の旋律が、第2舞曲「Allegro molto」では「ハンガリー風」、第3舞曲「Allegro vivace」では「ハンガリー・ルーマニア(特にリズムで)・アラブのそれぞれの要素」が、そして、第4舞曲「Molto tranquillo」の「夜の音楽」を思わせる静かな舞曲ではアラブ風の旋律が用いられているとのことです。
もちろん、第5舞曲「Comodo」のように、「非常に原始的な舞曲でどこに由来するとも言えない」旋律が用いられているものもあります。
ただし、「どこに由来するとも言えない」ような部分を含みながらも、バルトーク作品に共通する取っつきにくさは希薄です。
バルトークはこの後にピアノ協奏曲の1番や2番、弦楽4重奏曲の3番や4番などを生み出していくのですが、そう言う作品と較べると実に取っつきやすい音楽に仕上がっています。
おそらく、その背景には市政50周年の記念音楽という縛りがあったからでしょう。
実際、その記念音楽祭ではドホナーニの「祝典序曲」、コダーイの「ハンガリー詩篇」とともに初演されて好評を博しました。
とはいっても、バルトークらしい強烈なリズムの推進力は聞くものを圧倒します。
それはもう、凄みすら感じるほどの、おかしな言い方かもしれませんが「洗練された野蛮」さが貫かれています。
- 第1舞曲 Moderato
- 第2舞曲 Allegro molto
- 第3舞曲 Allegro vivace
- 第4舞曲 Molto tranquillo
- 第5舞曲 Comodo
- 終曲 Allegro
マジャールの血が爆発するような演奏をしてくれていたらもっと面白かっただろうなとは思ってしまいます
ドラティの経歴を振り返ってみると、「フランツ・リスト音楽院でコダーイとヴェイネル・レオーに作曲を、バルトークにピアノを学ぶ。」となっています。偉大な作曲家だったバルトークが「フランツ・リスト音楽院」では作曲ではなくてピアノを教えていたというのは意外な事実なのですが、その背景には「作曲は教えるものではないし、私には不可能です」という考えがあったことはよく知られています。
ですから、この二人の偉大な作曲家から様々な形で音楽の骨格となる部分を学ぶことができたのは、ドラティの出発点としてはこの上もない幸福だったのでしょう。
ドラティのバルトークを聞いていていつも感じるのは「響きの美しさ」です。
バルトークと言えば、確かに楽器を打楽器的に扱う「荒々しさ」があちこちに顔を出すのですが、基本的には透明感の高い硬質で澄み切った響きこそが真骨頂だと思います。ドラティの演奏で聞くと、その響きが見事に実現されていることに感心させられます。
ただし、そうなってみると、フリッツ・ライナーやジョージ・セルなどの凄い録音が存在しているので、どうしても影が薄くなります。
もう一人、ゲオルク・ショルティの名前を挙げておいてもいいかと思われます。
こういう系列の中に数え上げられると、アンタル・ドラティという名前はいささか霞んでしまいます。
ところが、同じマジャールの血を持つ指揮者でも、フリッチャイなどは随分と方向性の異なる録音を残しています。
バルトークの音楽には理知的な部分が骨格として存在しているのですが、それとは真逆の民族的な土臭さというか、野蛮さみたいなものも内包していました。フリッチャイはそう言う矛盾を含んだバルトークの音楽に寄り添って、バルトークの音楽が土臭くなればフリッチャイの音楽もためらうことなく土臭くなるのです。
しかし、セルやライナーなどはその様な整理しきれない部分もまた整理しきってしまうのです。
それはドラティも同じです。
そして、その背景に当時のアメリカを覆っていた「新即物主義」の影響を見ることは容易でしょう。
それだけに、そう言う軛から自由になって、マジャールの血が爆発するような演奏をしてくれていたらもっと面白かっただろうなとは思ってしまうます。
それから、ついでながら、この録音は映画用の35mmフィルムを使って録音されています。とびきりの優秀録音だと言っていいでしょう。
マイクはMercury定番の「Schoeps M201」を3本使いですから、編集によって後からオケのバランスを整えることは不可能です。
ですから、ここには当時のロンドン響の優れた機能とドラティの並々ならぬ統率力が刻み込まれた録音です。